読み直したよ、久しぶりに。どのくらい久しぶりかって、実に26年ぶりだ。高校三年のぼくが読んだというのは、不思議極まりない。まったく理解できなかったのではないかと今は思う。今回読んでみてやはり思ったのは「大人の興奮」である。40を過ぎて京都に行ったときに感じたものに近い。ぼくの心はいろんな経験を通して汚れているのである。汚れた心で初めてわかるいろんな機微。それがあちこちに散りばめられているすごい作品だ。
18歳のときに三島作品で一番良かったと感じたのは言うまでもなく「潮騒」だった。三浦友和と山口百恵が演じたあの純愛作品であるから、皆さんもご存知だろう。次になんとか理解できたのが「金閣寺」や「仮面の告白」だった。18歳でも一応筋は追うことができた……という程度であろう。「花ざかりの森」はもういけなかった。「憂国」や「F108」はもう皇国史観の方面に走っていく助けにしかならなかった。ぼくにはそこまでだった。
豊饒の海の第二巻「奔馬」を読み進めている。法曹の主人公である。一巻も二巻も、この(ぼくからすれば)懈怠とも言える雰囲気が覆っている。あまり書くとネタバレなので実況はしないが、貴族の生活・厳然たる身分の差・恋愛感情(禁止と背徳)・焦燥など、テーマがあまりに深い。三島由紀夫はこの四部作を完成させた直後に、45歳で市ヶ谷の自衛隊に乗り込んで自決しているのである。
当然のことながら、テーマとして生と死も作品の根底を流れている。期待を裏切りながら進む筋書き。でも嘘や依頼は巧みに絡み合って調和しているのである。酸いも甘いも噛み分けた大人の皆さんに読んでいただきたい作品である。