茗荷谷に出る用事がありそのあと夜まで時間があったので、徒歩で行ける小石川植物園へ行った。もともと徳川幕府の薬草栽培園だったらしい。明治に入ってから東大が管理しているようである。震災時の避難所や、貧困者の入院療養所にもなっていた土地のようだ。
平日の日中であることに加え、小雨のそぼ降る悪い天候と地がぬかるんでいる状態で、ほとんど入園者はいないようだった。一キロくらいの広い敷地の中に、自分も含め五人くらいしかいなかったのではないかと思われる。世間にある施設やテーマパークなどとは一線を画しており、本当に自然のままである。植樹も区画の中ではなく、林の中に自然に植わっている。散歩道も余計なコンクリートやブロックがない、獣道のようだ。ただ傾斜のあるところは崖崩れが起きないよう造成はしてある。下のほうに日本庭園がありそこだけは人工的だったが、それでも石で枠を作った程度であった。
一時間半程度散策したが、山中の自然公園を歩いているような感覚に陥った。山道もあり蜘蛛の巣が縦横に張られている。傘を差しながらの散歩だったので巣が顔に当たることはなかったが、そのくらい自然のままである。とても都心にいる気がしない。山手線の中でしかも文京区の真ん中である。ときどき遠く自動車のクラクションが聞こえ、我に返る程度だ。
二十代のころにこの植物園に一度入ったがこんな感慨はなかったと思う。体は少し疲れたが精神的にずいぶん癒されたように思う。
東京大学大学院理学系研究科附属植物園「小石川植物園」(入場330円)
http://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/